
第一回 作:蝮の権蔵
あん・・・シートベルトが柔肌に食い込んで・・・。
あたし、疼いてきちゃいました。
桃子のが・・・ジュン・・・って。
あうっ・・・ご主人様ったら今日はいつもより荒々しい・・・。
凄いっ・・・
ご、ご主人様・・・もう我慢できません。。。
嫌ッ・・・桃子の・・・
桃子感じちゃうぅ〜〜〜〜〜!!
第二回 作:蝮の平次
桃子は身をよじらせながら、時折苦しげな表情を見せている。
シートベルトが身体に食い込むのもいとわないその動きに、
桃子が何かを我慢しているのを感じた。
俺は桃子の抗う手を払いのけ、荒々しい手の動きを続けた。
「ダメ、もうダメー・・・」
絶叫し、もう一度同じ言葉を吐息混じりでそう呟くと、
桃子の身体が一瞬強張り、床一面に大量の吐瀉物を撒き散らした。
第3回 作:蝮の権蔵
俺はゆっくりと車を路肩に付け、煙草に火をつけた。
そして桃子にこう告げた・・・。
「ぼ・・・僕の車にそんな事しちゃいけないんだジョー!
このキュートな僕の愛車キャサリンのかぐわしい皮の香りが台無しチョー!
弁償しろー!ママに言いつけてやる!わーん!!!!!」
俺の中の違う自分が桃子にこう告げた。
自分が何を言っているのか判らなかった。
喋っているのは俺の中にいるもう一人の自分だ。
そう心でつぶやきながら桃子を見つめた。
桃子の姿が滲んで見えた。
頬に熱いものが流れていくのが判った。。。
第四回 作:蝮の平次
「ママ?ママって・・・・?」
マセラティのブランケットで自分の吐き出したものをふき取りながら、
桃子は狼狽え、軽い目まいを感じていた。
「あなた子供の頃から天涯孤独の身で、
イタリアンマフィアに売られて日本に来たって言ってたじゃない。
あれは嘘だったの?」
桃子は激情に駆られ、そして言い放った。
「ママって誰?嘘泣きしてもだめよ!」
第五回 作:蝮の権蔵
桃子は酔うと必ず私の過去を口にする。
そんな話を彼女にするんじゃなかったと今では後悔している。
普段は無口な女だが、酒が彼女を饒舌に変える。
彼女からの誘いの時、必ずこうなる事は判っていた。
ママ・・・。
反安保闘争に明け暮れた学生時代。
新宿の路地裏にひっそりとたたずんでいたあの店のママ。
何かに誘われるように店のドアを開けた時。
私の人生は大きく変わった。。。
第六回 作:蝮の平次
安普請のドアを開けると、渾沌とした空間がそこにはあった。
身体にのし掛かってくるような、気だるく、重い空気。
纏わりついてくる安っぽい香水の香りは、
カウンターにへばりついている娼婦のものだろうか。
スツールに腰掛けようとした俺に、
カウンターの中にいる女主人が言葉を投げかけてきた。
「あんた、何が欲しくてここに来たんだい」
第七回 作:蝮の権蔵
思わずその声に押し返されるるように踵を返した。
やばい、俺みたいな小僧が入りこむ場所じゃない。
そう直感したのだ。
この店に潜む何かに飲みこまれないように出口へ向かった。
そしてドアに手を掛けようとした時、勝手にドアが開いた。
「あれ?どうしてこんな所へ??」
真紀子だ。
いつも行くジャズ喫茶でよく見かける。
話した事はなかったが、名前だけは知っていた。
いつも明るく振舞っているが、何処か影のある女。
彼女について知っていることはそれだけだった。
第八回 作:蝮の平次
小首を傾げ、訝しげな視線を俺に投げ掛けながら、
「ここ、いつものジャズ喫茶よりも刺激的でしょ?」
真紀子は両腕を俺の両肩に差し伸べ、店の中に押し戻した。
「何だ、真紀子の知りあいなのかい」
煙草に火をつけながら、女主人は言葉を続けた。
「で、あんたも悪魔に魂を売ったクチかい?」
第九回 作:蝮の権蔵
「ママ、彼は関係ないわ。」
そう言った彼女の表情は薄暗い店内ではよく見えなかった。
「お兄さん、何を飲むんだい?」
スツールの女が聞いてきた。
女主人はカウンターの奥へ入っていった。
真紀子の知り合いと聞いて私への興味を失ったようだ。
「じゃあ水割りを。」
カウンターに入ってきた真紀子が水割りを作り始めた。
「偶然ね。ここ、私のママの店なんだ。初めてだったの?」
馴れた手つきで氷を砕いていく。
棚には綺麗に磨かれたグラスが並べられている。
この店の中に似つかわしくない輝きを放っていた。
「たまにバイトしてるんだ。
大学はあんな状態だし。」
スツールの奥にいた女がレコードをかけた。
ビリー・ホリディのサマータイム。
彼女はカウンターに肘をかけ、
その歌声とは対照的な屈託のない笑顔でこう言った。
「ねぇ、聞いていい?もしかしてハーフなの??
いつもあの店の奥の席にいるでしょ。
気になってたんだ。」
忘れられない夏が始まろうとしていた・・・。
序章 完
第一章へとつづく